定款の肝を押さえる!:株式会社編①登記事項(後編)

株式会社の定款を登記事項から押さえる3回目です。

前編中編と続いて、後半の今回は定款の第2章以降について見ていきましょう。

定款「第2章 株式」と登記事項

株式会社の定款では「第1章 総則」に続いて「第2章 株式」が記載されます。

株式会社であるからには株式の規定を記載しておきましょう、という項目になります。とは言え、小規模な株式会社だと2条分しかない場合もあり、株式会社を設立してから見直されない部分でもあります。

そんな株式についての条分を登記事項から見ていきましょう。

①発行可能株式総数

(発行可能株式総数)
第○条 当会社の発行可能株式総数は、○○株とする。

発行可能株式総数とは、文字通り「発行することのできる株式の総数」のことです。株式会社を設立する時に決定します。もし、定款と登記事項証明書とで、記載されてる発行可能株式総数が異なっているならば速やかに原因を調べたうえで一致させなければなりませんので確認しましょう。

また、会社の状況に合わせて増資・減資を考えている場合、変更の必要があるかもしれません。発行済みの株式数によっては発行可能株式総数も増やしたり減らしたりしなければならないこともありますので、税理士等に相談して定款変更と変更登記を行う必要があります。

②株券発行会社

(株券の発行)
第○条 当会社の株式については、株券を発行する。

かつての旧商法の下では株式については株券を発行することが原則でしたが、会社法になってからは株券を発行しないことが原則となっています。そのため、株券を発行したい場合には上記の条文を記載する必要があります。

旧商法から会社法に移行する際に、会社によっては株券を発行することを選択していることもあります。事業承継や組織変更では株券が発行されていると影響が出ることも考えられますので、確認しておきましょう。

③株式の譲渡制限

(株式の譲渡制限)
第○条 当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会の承認を受けなければならない。

株式会社で「非公開会社」という言い方で耳にされたこともあるかと思いますが、この株式譲渡制限の規定のことを指します。会社法上で言えば「公開会社でない株式会社」という言い方になり、要は会社の株式を譲渡(取得)するには会社の承認が必要ですよ、ということです。

この規定が登記事項証明書に記載されていない、ということはないと思いますが、定款と一緒に確認されるといいでしょう。

また、上記の条文では、株主総会の承認を受けるようになっていますが、代表取締役の承認になっていたり、取締役会が設置されている会社では取締役会の承認になっていることもあります。こちらも登記事項証明書と定款が一致しているか確認してください。

定款「第4章 取締役・取締役会」と登記事項

①取締役会

(取締役会の設置)
第○条 当会社は、取締役会を置く。

登記事項証明書に「取締役会設置会社」と記載があれば、定款には上記のような条文があるでしょう。

取締役会を置いている株式会社は、取締役会を置いていない株式会社とは違った法人運営となります。自身の会社が取締役会を置いているかどうかを把握していない経営者はいないと思いたいですが、登記事項証明書と定款に記載されているかを再確認することで法人運営を見直すきっかけにするもいいでしょう。

②代表取締役

(代表取締役の選定)
第○条 当会社は、代表取締役を○○○○とする。

登記事項証明書には代表取締役の氏名が記載されています。

株式会社を設立する際、最初に作成する原始定款では「第7章 附則」という部分で設立時の代表取締役を記載することが多いのですが、この「第4章 取締役」で代表取締役を定めている場合もあります。

登記事項証明書に記載されている代表取締役と定款に記載されている代表取締役とで違っていてはいけません。また、定款に関係なく役員全員を含めて現在把握している役員と相違ないかと合わせて確認しましょう。登記事項証明書の記載が違っていれば変更登記を、定款に違う人物が上記の条文のような形で残っていれば定款変更にて条文を削除してください。

「第7章 附則」の取り扱いは下記で触れています。

③取締役の責任免除

(取締役の責任免除)
第○条  当会社は、会社法第426条の規定により、取締役(当該責任を負う取締役を除く。)の過半数の同意をもって、同法第423条の行為に関する取締役( 取締役であった者を含む。) の責任を法令の限度において免除することができる。

この条文は取締役の任務懈怠の責任を一部免除できるというものです。ここでは詳細は割愛しますが、この条文を定款で定めると登記事項証明書にも記載されることになります。

この定めがある場合の注意は、取締役会を置いていない場合の役員構成についてです。

取締役会を置かずにこの定めを置く場合、「取締役は最低2名以上」「監査役設置会社、監査委員会等設置会社又は指名委員会等設置会社」という条件を満たさなければなりません。定款を作成した時には条件を満たしていても、年月が経ち役員構成が変化する中で条件を満たしていないこともあるかもしれません。通常は役員の変更登記の際に分かるので問題はないと思いますが、確認はしておいてもよいでしょう。

④会計参与について

会社法では、公認会計士や税理士が会計参与として取締役と共同して計算書類の作成等を行う制度が設けられています。中小企業の計算書類の適正さを担保することが狙いなので、導入している中小企業・小規模事業者もあるかと思います。

会計参与に関する定款の記載は取締役・取締役会の章で規定を置くことも少なくないので、ここに記述します。もちろん独立して「第○章 会計参与」としていることもあります。

会計参与についても「①取締役会」のように規定を置くと登記事項証明書にも記載されます。また、「③取締役の責任免除」と同様に会計参与の責任免除の規定を置くこともできます。

定款「第5章 監査役・監査役会」と登記事項

①監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する定め

(監査役の監査の範囲の限定)
第○条 当会社の監査役は、会計に関するものに限り、監査を行う。

監査役・監査役会においても、取締役・取締役会・会計参与と同じように、定款に定めを置くと登記事項証明書にも記載されます。また、責任免除の規定も同様です。

そのうえで、中小企業のように大会社でもなく公開会社でもない場合、監査役の権限を定款で会計監査に限定することができます。本来は業務監査の権限も有していますが、旧商法からの規定を引き継いだ会社法上の規定です。

登記事項証明書に記載されていれば定款にも記載されているはずですが、この監査役の権限を会計監査に限定すると、監査役設置会社ではなくなることに注意が必要です。監査役設置会社ではなくなるということは、前述の「第4章 取締役・取締役会」の「③取締役の責任免除」に必要な監査役設置会社の条件を満たさなくなり、責任免除の制度は適用されなくなります。当然、監査役会を置くこともできません。また、会計参与を設置していて責任免除規定を置いている場合も適用されなくなります。

定款「第7章 附則」と登記事項証明書

①発行済株式の総数並びに種類及び数

(設立の際に発行する株式)
第○条 当会社の設立に際して発行する株式は、普通株式○○株とし、その発行価額は、1株につき金○○円とする。

登記事項証明書に発行済株式の総数について記載がありますが、株式会社を設立する際に最初に作成する原始定款では上記のように記載され、この部分が登記事項証明書に反映されます。

定款の変更、発行済み株式の変更、株式の種類の変更、といったことを把握していない場合に登記事項証明書と定款の不一致が起きることもあります。確認をして、必要であれば変更登記や定款変更の手続きをとりましょう。

②資本金の額

(設立に際して出資される財産の価額及び成立後の資本金の額)
第○条 当会社の設立に際して出資される財産の価額は、金○○円とする。
2 当会社の成立後の資本金の額は、金○○円とする。

「①発行済株式の総数並びに種類及び数」と同様に、原始定款ではここで資本金が記載されて登記事項証明書に反映されます。現状の資本金の額と登記事項証明書の額が一致していなかったり、資本金の変更を把握していない場合にはきちんと確認しましょう。

以上、ここまで前編・中編・後編と3回に渡って登記事項から押さえる定款について触れました。定款は会社の軸となる規定であり、登記事項は対外的にも会社の基礎部分を示す大切なものです。健全な株式会社であるためにも確認する機会を設けることをお勧めします。

次回は、登記事項には関わらない部分で確認が必要な株式会社の定款を押さえます。

お気軽にフォローしてください!

コラム記事の内容について

コラムで掲載している記事は、掲載時の法令に基づいて執筆しています。記事の内容を参考にされる場合は、掲載年月日を十分にご確認ください。