定款の肝を押さえる!:株式会社編②その他

株式会社の定款を押さえる4回目は、登記事項には関わらない部分で確認が必要なところについて見ていきます。

登記事項について触れてきたこれまでと同様に、定款の構成順に押さえていきましょう。

定款「第2章 株式」

①株式の売渡請求

(相続人等に対する売り渡しの請求)
第○条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。

相続や会社の合併・分割によって会社の株式を取得した人や法人に対して、当該株式を売り渡すように請求できる条文です。

事業承継の際に効果を発揮する条文ですが、単純な相続による事業承継だけではなく、M&Aでの事業承継も選択肢の一つとなっている昨今ではより重要な条文とも言えます。

この条文が記載されているから事業承継での株式分散の対策は問題ない、というわけではなく、記載があるために不利益を被る場合もあります。高齢の株式保有者がいる場合で事業承継が関わってきそうな状況下では、記載があること又はないことで、事業承継が発生した時にどのような影響があるのか慎重な検討が必要となります。

まずは自社の定款に記載があるか確認しましょう。そのうえで、事業承継の専門家に判断を仰ぐことをお勧めします。

②株主名簿記載事項の記載等の請求

(株主名簿記載事項の記載等の請求)
第○条 当会社の株式の取得者が株主の氏名等株主名簿記載事項を株主名簿に記載又は記録することを請求するには、当会社所定の書式による請求書にその取得した株式の株主として株主名簿に記載若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と株式の取得者が署名又は記名押印し、共同してしなければならない。ただし、法務省令で定める場合は、株式取得者が単独で上記請求をすることができる。

株式会社の定款では当たり前のように記載されているのに、どういう意味か分からないともよく言われる条文です。

この条文の説明の前に、本来、株式会社を設立した際には「株主名簿」を作成しなければなりません。これは会社法上の義務です。しかし、この株主名簿を作成していない会社が意外なほど多いように見受けられます。

この条文が定款に記載されているかどうかに関係なく、まずは自社の株主名簿が作成されているか必ず確認しましょう。ちなみに、株主名簿では以下の記載が必要です。

  • 株主の氏名又は名称及び住所
  • 株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
  • 株主が株式を取得した日
  • 株式会社が株券発行会社である場合には、株式に係る株券の番号

そのうえで、譲渡によって株式を取得した者は、株主名簿の名義変更を会社に請求できますよ、というのがこの条文の意味するところです。

会社法に定められているので定款に記載しなくてもよい条文ですが、会社法のままでは口頭の請求でも問題ないことから、定款で「当会社所定の書式による請求書に」という文章を加えて、書面での請求を求める内容にしています。

株主名簿は非常に重要な会社の書類です。定款の記載と合わせて確認しましょう。

尚、株券を発行している会社では、例に挙げた記載とは違う書き方になっています。また条文の見出しも「(株主名簿の名義書換)」と書かれていることもあります。

定款「第4章 取締役・取締役会」

取締役の任期

(取締役の任期)
第○条 取締役の任期は、選任後●年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
2 補欠又は増員により選任した取締役の任期は、前任者又はその選任時に在任する取締役の任期の満了する時までとする。

中小企業の株式会社では、取締役が一人だったり、家族数人だけだったり、というケースはとても多くあります。

取締役の任期は通常は2年ですが、非公開会社では定款に定めることで、最長で選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすることができます。取締役が任期満了となると、新しい者が取締役になるにしろ変わらずに重任(再任)するにしろ、法務局で登記をしなければなりません。

取締役が一人や家族のみという場合は、長期間変わらないことを想定し、任期を定款で最長の10年と定めていることも少なくありません。そうすることで2年に一度の登記の手間をなくす、という理由からです。

こうした明確な理由を取締役である本人が把握している場合は問題ないのですが、意外と自社の定款で任期がどう定められているか知らない取締役も中小企業では少なくありません。高齢の取締役の方になると、任期だけではなく、これまで登記をきちんと行っているかも知らないことがあります。また会社法ができる以前の有限会社は取締役の任期がなかったため、そのまま把握していない場合もあります。

重任され続けているとしても登記に関わる重要な条文です。把握していない場合は定款を見直しましょう。

ここまで、株式会社の定款で肝になる部分をご説明してきました。

続いては合同会社の定款の肝を押さえていきましょう。

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