定款の肝を押さえる!:合同会社編①総則
定款の肝を押さえる!で取り上げる二番目の法人は合同会社です。
合同会社の定款は、設立の際に公証人役場の認証を受けなくてもよいという大きな特徴があります。法人の所有と経営が分離されていないことが理由の一つですが、これにより法人の構成員(社員)が定款によって法人運営を取り決める裁量権(「定款自治」と言います)の範囲が広くなっています。
定款自治の範囲が広いということは、それだけ自由な法人運営の設計ができるということです。ただし、自由というのはメリットもデメリットも大きいもの。最低限の記載で問題ないわけでもなく、事業の内容によっても記載内容を考慮したいのが合同会社の定款です。
そんな合同会社の定款の肝は、定款の構成を順番に追っていきながら押さえていきます。ただし、合同会社の定款の構成は、株式会社の定款の構成と若干違い、見出しの意味は同じでも書き方が違う例がよく見受けられますので、そこも含めてその都度触れていきます。また、合同会社の構成員である社員が一人なのか複数なのかによっても定款の内容が違いますので、できるだけ種々のパターンにも触れていけたらと考えています。
登記事項にも触れていきますので、お手元に登記事項証明書があるとチェックしやすくなります。この場合は最新の登記事項証明書をご準備ください。
それでは、合同会社の定款を押さえていきましょう。
合同会社の定款「第1章 総則」
合同会社の定款も、他の法人の定款と同様に「第1章 総則」から始まります。
総則では、合同会社の一般的な規定を記載しています。記載する事項がどれも登記事項になるので、対外的にもきちんと押さえておきたいところです。
以下、総則に記載される事項をそれぞれ見ていきます。
商号
(商 号)
第1条 当会社は、合同会社○○○○と称する。
まずは会社の商号です。
商号は定款に必ず記載しなければなりません。また、登記事項でもあります。
合同会社の名称には必ず「合同会社」という文字を用いらなければなりません。用いるのは名称の前後どちらかで「合同会社○○○○」や「○○○○合同会社」となります。
現在の会社名が定款と登記事項証明書で異なる場合は変更登記が必要です。また、設立時は小規模で始めた事業が大きくなり、海外展開を見据えた時に英文表記にしたい場合、商号そのものを英文表記に変更したり、国内外で日本語表記と英文表記を使い分けたいといったこともあるかと思います。細かいルールは、法務省「商号にローマ字等を用いるとについて」を参照ください。定款での具体的な記載は「定款の肝を押さえる!:株式会社編①登記事項(前編)」を参考にしていただければと思います。
また、稀に自身の名前を会社名にしていることもあります。会社名と同じ名前の(構成員としての)社員がいる間は構いませんが、何らかの理由でその社員が退社した場合、その退社した社員は会社に対して自身の名前を使用しないように請求することもできます。あくまで退社した社員の権利ですが、知っておいても良いと思います。
目的
(目 的)
第2条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。
1. ・・・・・・・
2. ・・・・・・・
3. ・・・・・・・
4. 前各号に附帯する一切の事業
会社の商号に続いては、目的が記載されます。会社がどのような事業を行うか具体的に示すことになります。
目的は定款に必ず記載しなければなりません。また、登記事項でもあります。
登記事項証明書にはこの目的が表示されていますので、現状の会社で行っている事業と照らし合わせて、記載されていない事業を行っている場合には定款を変更して変更登記の申請もしましょう。
また、これから進出したい新しい事業を考えているならば、この目的の部分にどう記載するかも検討が必要です。会社の事業は、この目的に記載されていなければ原則行うことができません。特に許認可申請をしなければならない事業を行う場合、登記事項証明書と定款の提出もしなければならず、記載がないと許認可が下りません。必要であれば定款変更と変更登記申請を行ってください。
どのように記載したらよいか分からない場合には、定款の目的を調べることができるサイトを参考にされてもいいでしょう。「定款 目的」で検索すると数多くヒットします。
目的を見直すことは、現状の会社の事業を見直す効果もあります。自身の会社がどんな事業をする会社なのか、初心に戻った感覚で知ることができます。また、会社の将来について考えるきっかけにもなりますので、確認してみましょう。
本店の所在地
(本店の所在地)
第3条 当会社は、本店を福井県福井市に置く。
本店所在地も、定款に必ず記載しなければならず、また登記事項です。
こちらは株式会社の定款と変わりませんので「定款の肝を押さえる!:株式会社編①登記事項(中編)」を参考にしていただければと思います。
公告の方法
(公告の方法)
第4条 当会社の公告は、官報に掲載する。
公告とは、法令上に定められている特定の事項を広く一般に知らせることをいいます。
もっとも、合同会社にとっては、株式会社のように決算公告を行う必要はなく、株主に対する公告に相当するような社員に対する公告も行う必要がありません。また、定款には必ず記載しなければならないわけではありません。
ただし、公告の方法は登記事項ではありますので、次のことにはご注意ください。
公告の方法には、①官報に掲載、②日刊新聞紙に掲載、③電子公告、の3つの方法があり、定款に公告の方法を定めない場合は「①官報に掲載」が登記事項証明書に記載されます。ですので、「②日刊新聞紙に掲載」又は「③電子公告」を採用したい場合には、その旨を定款に記載しなければなりません。もし、自社の定款を確認した時に公告の方法が記載されていなければ、登記事項証明書を確認してみましょう。
また「③電子公告」について、株式会社では決算公告をしなければならないため、中小企業・小規模事業者が費用の面から安易に電子公告を選択することで、自社の決算内容をウェブ上で誰でも簡単に閲覧できることのリスクが生じます。この点で、合同会社には決算公告を行う必要はありませんから、公告の方法に電子公告を選択しても問題ないでしょう。電子公告を選択する場合の定款は次のようになります。
(公告の方法)
第4条 当会社の公告は、電子公告の方法により行う。ただし、電子公告による公告をすることができない事故その他やむを得ない事由が生じた場合には、官報に掲載してする。
ただし、電子公告を選択した場合、登記事項証明書には公告を行うウェブページのURLも記載されます。自社のホームページを掲載URLとしている場合、URLが変更になっていないか確認し、登記事項証明書と違っていれば変更登記を行いましょう。
以上、合同会社の定款を押さえる1回目として「総則」に触れました。
次回は合同会社の定款でも特徴的な個所となる「社員及び出資」について押さえていきましょう!